「マグメル深海水族館」ってこんなところ♪ 椙下聖海先生インタビュー!

『マグメル深海水族館』第2巻発売を記念して、作者の椙下聖海さんにインタビューを敢行!
最新刊の見どころから椙下さんが深海生物を好きになったきっかけ、『マグメル深海水族館』の裏話まで、いろんなお話をお聞きしました♪

f:id:kuragebunch:20180608165211j:plainマグメル深海水族館』第2巻

―――第2巻の見どころ

編集C いよいよコミックス第2巻が発売ですね。第1巻のカバーイラストは、航太郎くんと深い青色がとても素敵でしたが、第2巻は、なんと赤紫色……! デザイナーの名和田耕平さんとの打ち合わせ時から「2巻は、赤色が良い!!」とおっしゃっていましたが、どんな理由があったのでしょうか?


椙下 水族館で深海生物を飼育する時に赤いライトを使うことが多いからです。暗い深海にすむ生き物は光に弱いので、水に吸収されやすい赤い光で照らす工夫をしています。なので私のなかで「深海が赤いイメージ」というのはずっとありました。ふつうの水族館の漫画だったら水色などがキーカラーでいいと思うのですが、深海漫画だから赤色だな、と思って(笑)。

f:id:kuragebunch:20180608165236j:plain第2巻の海の色

編集C なるほど、そんな深い理由があったのですね。その時、教えてほしかったです(笑)。初めて聞いた時は、「なぜ赤なのだろう……レッドオーシャン!?」と思っていたのですが、実際に椙下さんが描かれた絵を拝見すると、深海らしい深い赤色でとても素敵だなーと思いました。ちなみに今巻は、航太郎くんじゃなくて大瀬崎館長になりましたね。これも椙下さんの「館長が良い!」とおっしゃっていたことから決まりましたが、その理由は?


椙下 2巻はオンデンザメの話や館長の過去に少し触れる話もあるので、館長かな……と。館長をカッコ良く描きたかったので、周りを泳ぐ魚も流線形でカッコ良いギンザメテングギンザメフトツノザメフジクジラヘラツノザメオロシザメなど描きました。


編集C 個人的には、一番手前のギンザメが不思議なフォルムで好きでした~。1巻とはまた違って、大人っぽい雰囲気に仕上がりましたね。さて2巻には、深海魚と聞いて意外だったキンメダイが出てきますが(ちなみにキンメダイが赤色なのは、深海で目立たないようにするためだそうです)、その話のなかで、深海レストラン「ラティメリア」が登場します。それ以外にも2巻にはマグメル深海水族館の内部が知れる場面が多数描かれています。実は、椙下さんが描いた「マグメル深海水族館」の設定資料が多数ありますので、こちらで公開♪

 

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マグメル深海水族館全体図

 

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メイン展示エリア

 

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深海レストラン「ラティメリア」

 

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ラティメリアメニュー

 

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館長室

 

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クジラの庭(動物慰霊碑)

 

編集C 設定を拝見すると胸がわくわくします~♪ 描いていていかがでしたか?

 

椙下 自分の理想の水族館を描いていたので、とても楽しかったです。


編集C ちなみに特にこだわった設定はどこでしょうか?


椙下 特殊なガラスを使っているところですかね。現代の技術で作られた普通のガラスだったら、深海エレベーターとか水圧的に無理なんです。あとは、品川駅から「しんかい線」で20分で行けるというところでしょうか。たとえば海に行く手段としてスキューバダイビングなどがありますが、海に潜るための準備ってすごく大変ですよね。そういう大変さが一切なくて「電車に乗ったら簡単に深海へ行ける」というのはこだわりました。


編集C そういえば、連載が始まる前に品川駅へ取材に行きましたね。「しんかい線」は、新幹線乗り場と横須賀線の間くらいにあるイメージですので、品川駅の構内を歩く際は、ぜひ「ここからしんかい線が伸びているんだー」と思いを馳せていただきたいです。

 

―――深海生物を好きになったきっかけ

編集C 深海生物っていつ頃からお好きだったんですか?


椙下 深海生物に限らず、子どもの頃から生き物が好きでした。一番最初に「深海」に興味を持ったのは、小学生の時に父親から『海底2万里』をもらって読んだことがきっかけです。謎の巨大生物が出てくるのですが「海の中には不思議な生き物がいっぱいいるんだなー」と感じた記憶があります。また海の近くに住んでいて、毎日行っていたので、とても身近な存在でした。実際に深海生物に興味を持ったのは、水族館でアルバイトを始めてからですね。働きながら深海生物を観察していたら、自分が日常で目にするものと全く違う形をしているのが面白くて、描いてみたくなりました。一番最初に描いたのは、ヒトデの仲間のテヅルモヅルです。水族館で初めて見たのですが、海藻みたいな形をしているのに、ヒトデと同じ5本脚に枝分かれしているんです。それを見ていると、ぐるぐるした感じがすごく描いてみたくなる造型をしていて。仕事で毎日深海生物を見ていると、自分と一番遠い世界にいるような気がして、だから余計に知りたくなりました。その頃から「深海の漫画を描いてみたいなー」と思うようになりましたね。

f:id:kuragebunch:20180608165943j:plain椙下さんが初めて描いたテヅルモヅル


編集C そうだったんですね。深海生物をテーマにした同人誌を描かれていた頃でしょうか。私は当時、海の漫画を作りたかったのですが、コミティアで椙下さんの同人誌を読んだ時に「この人だ! 早く声かけないと!」と焦ったことを思い出しました(笑)。その後、第10回「新潮社漫画大賞Rookie @ GOGO!!」で古代生物を描いた『水底の彼女』で佳作を受賞。そこから連載までの道のりは、長かったですね。

 

―――『マグメル深海水族館』制作秘話

椙下 「深海漫画を描きたい」というのは決まってましたが、設定は紆余曲折ありましたね。最初は、大学で深海を学ぶ男の子を主人公にした物語を考えていたのですが、なかなかうまくまとまらず。そこから「深海生物を描くなら水族館のほうが良いのでは」という話になって、Cさんに「椙下さんの理想の水族館はどこですか?」という質問をされた時に「海の中にある水族館が理想です」と答えたことがきっかけで、深海にある水族館の話を描くことになりました。


編集C そうでしたね~。懐かしい。編集部近くの珈琲館で打ち合わせ中のことでしたね。覚えています(笑)。


椙下 のちに監修の石垣幸二さんとお話した時、石垣さんも「海の中に水族館があるのが理想」とおっしゃっていたので、「間違ってなかったー」と思いました。


編集C 石垣さんは、いつも多角的でいろんなアドバイスをしてくださるので、本当にありがたいですよね。


椙下 そうですね。私は漫画の中で「現実にできないことは描いちゃダメかな」と思ってしまうのですが、石垣さんは「シーラカンスが日本の海にいたっておかしくない。だって海は地球上すべてつながっているんだから」というお話を毎回してくださります。まだまだ深海には解明されていないことがたくさんあって、「この海に、この魚は絶対にいない」なんてことは誰にもわからないんですよね。もちろん今、判明している事柄は間違いのないように描かなければいけませんが、わかっていないことも多いからこそ、想像力を駆使して自由に描いていいのかな、と思うようになりました。たとえば2巻に収録されているメンダコの話は、当初、メンダコを漁で獲ってくる話を考えていたのですが、石垣さんから「これは実際にある水族館で当たり前に行われているので、理想の水族館だからこそできる話にした方がこの漫画らしいのでは」というアドバイスをいただいて、メンダコの赤ちゃんを育てる話になりました。図鑑に載っていることを描いても意味がなくて、理想の水族館だからできることを描いていきたいと思っています。


編集C 今後どんな風な理想の水族館が描かれるのか、私も読者のひとりとしてとても楽しみです。最後に、くらげバンチの読者の皆さまにひとことお願いします。


椙下 まだまだ魅力的な深海生物がたくさんいるので、これからどんな生き物が登場するのか楽しみにしていただけたら嬉しいです。飼育員見習いとしてがんばる航太郎くんの応援もよろしくお願いします!

 

最新コミックス第2巻は、6月9日(土)発売!! どうぞよろしくお願いいたします♪