ひょんなことからAV男優になった男が、ひょんなことから漫画家にもなって――。AV男優という特殊な職業の舞台裏をあますところなく描いて話題となった『AV男優はじめました』も連載5年目を迎え、めでたく100回を突破した。これを記念して超人気女優・楪カレンと蛙野エレファンテの対談企画が実現。女優と男優、それぞれの立場から業界のリアルを濃厚に語り尽くす!
※蛙野エレファンテ×楪カレン対談記念の特製色紙プレゼント企画を9月10日より開催! 詳細はくらげバンチ公式Xにて!
【蛙野エレファンテ(かえるの・えれふぁんて)】
AV男優漫画家。男優としての経験談を描いた『AV男優はじめました』連載中。公式X@erefante
【楪カレン(ゆずりは・かれん)】
2001年3月28日生まれのAV女優。 業界屈指の美貌を誇り、身長148センチと小柄ながらスリーサイズ上からB96・W58・H85(cm)というトランジスタグラマーなスーパーボディの持ち主。公式X@yuzuriha_karen
AV女優とAV男優
大変なのはどっち?
――今回は『AV男優はじめました』100話到達記念!トップ女優のリアルをお伺いする…という名のご褒美企画。蛙野エレファンテ先生が「それならぜひ楪カレンさんにお会いしたい!」ということで、この対談が実現しました。
楪:以前から『AV男優はじめました』のファンだったので、オファーをいただいたときはとっても嬉しかったです!
蛙野:すごく緊張しています。可愛すぎて目を合わせられない…。うぅ、胸ばかり見てしまう。
――胸は見れるんだ…。ちなみに現場でこうやって女優と男優がマンツーマンで長時間話すことってあるんですか?
楪:ないです。そもそも待機する部屋が違うんですよね。
蛙野:基本的に隔離されていますよね。せいぜい撮影中にちょこっと雑談するくらい。ADのほうがよほど女優さんとしゃべれます。
――蛙野先生はADもされていましたから、そこはリアルな実感なのですね。ただ 最近は漫画の仕事が忙しくて、現場に出られていないようですが。
蛙野:引退したわけではないのですが、今は漫画だけで手いっぱいになっちゃってます。
楪:撮影って拘束時間が長いし、男優さんの場合、次の現場に行くこともありますもんね。
蛙野:でも男優の場合は絡みが終わったらインターバルがあるじゃないですか。その間も女優さんは出ずっぱりだから大変。
楪:体力的にはきついですね。ただ色々なプレッシャーもありますし、トータル的には男優さんのほうが大変なのかなって思います。
蛙野:そう言ってもらえるだけでありがたい。あんまり、そんなことを言われないので。
楪:多分女優さんたち、みんな思っていますよ!
――いわゆる勃ち待ち的なエピソードは漫画の中にも多々出てきますが、衆人環視のなかで受けるプレッシャーは相当ハードでしょうね。
蛙野:はい。でも、それを乗り越えないといけないんです。
楪:そういうとき、女優からすると何をしていいのかわかんないんですよ。「気にしないでいいですよ!」って声をかけるのもよくないですよね?
蛙野:気にしてくださる女優さんもいるんですけど、だからといって「じゃあお手伝いしてください」とは絶対言えないので。そんなこといったら周りから後でボコボコにされちゃう(笑)。
楪:監督さんによっては「ちょっとお手伝いしてあげなよ」っていう人もいますよね。逆に「プロの男優なんだから、いちいちやらなくていいんだよ」っていう人もいますけど。
蛙野:やらなくていいっていう監督は、(お手伝いされるのが)うらやましいからだと思うんですよね。僕もADをやっていたときに、そう思いましたもん。お手伝いの時が一番うらやましい!
AVの現場は柔軟性と
高い対応力が求められる
――お2人は素人時代からAVを見てたと思うんですけど、いざ業界に入ってみてギャップに苦しんだ部分もありますか?
蛙野:ギャップらしいギャップはないけど、毎回現場に入ると「あー、今AVの中にいる!」って思います。
楪:ギャップというよりビックリしたのは、デビュー前はカメラが回る前に色々と準備をするものだと思ってたんですよ。男優さんだったら先にゴムをつけておくとか、女優さんだったら先にローションでヌルヌルな状態にしているとか。でもそうではなくて、途中でADさんが差し出してくるのは驚きました(笑)。
蛙野:黒子たちが今か今かと待っている。
楪:だから「思っていた以上にスタッフさんがたくさんいるんだな」っていう驚きはありました。
蛙野:全然いない現場もありますけどね。
楪:ホテル撮影の時とか、そういう場合は少ないですよね。2人きりのシチュエーションみたいな。
蛙野:2人きりの現場、ぼく嫌なんです。
――観てるほうとしては、うらやましいですけど。
蛙野:プレッシャーがハンパない。後々になって「全然使えなかったぞ」って言われたらどうしようって。
楪:最初に説明を受けて、カメラを渡されて「はい、お願いします」みたいな。あれ、 テンパリますよね。「うまく撮れてるのかな?」って。
――事前にはほとんど情報がなく、現場に入ってから色々なことを指示されるものなんだっていうことは、『AV男優はじめました』を読んでいて驚いた部分です。
蛙野:いま思いついたみたいな感じで言ってくるんですよ。
楪:急に「このシーン、騎乗位だけだと物足りなくない? ここからは立ちバックでいこうか!」みたいな。
――分厚い台本のドラマ系も大変そうですね。
蛙野:セリフや演出が細かいものもあるんです。
楪:そういう現場、緊張しますよね。
蛙野:このセリフ、全部言わなきゃいけないんだ…ってね。
楪:監督さんによっては、(セリフの)一言一句を間違えられたら嫌だって人いますもんね。
蛙野:全く知らない業界モノとかも大変で。医者役とか。聞いたこともないワードがたくさん出てくるんですよ。
楪:女優の場合、今は使わないような語尾とか。「あなた、感じているのね?」みたいな(笑)。
――峰不二子ばりの。
楪:男優さんも、今時使わないようなオラオラ系のセリフが出てきたり。
蛙野:オラオラ系、苦手です。「ここでちょっとキレてくれ」とか言われると、声が出なかったりする。
楪:かといって声を出しすぎると、「もうちょいボリューム下げてもらっていい?」とかね(笑)。
――柔軟性と対応力が求められる仕事なんですね。
楪:男優さんの場合、失敗したら怒られることもあるじゃないですか。女優さんは許してくれるというか、注意ぐらいで終わるので。
蛙野:それでも、だいぶ怒られなくなりましたけどね。昔は「これ恫喝じゃん…」っていうぐらい怖い監督もいましたけど。この5年ぐらいで、だいぶトーンが下がってきました。
男優同士と女優同士
友人関係の裏事情
――カレンさんは、もともとデビュー前からAVがお好きだったと聞きました。
楪:好きでした。ただ、エロ目線で見るというよりは、「この女優さん可愛い」みたいな部分が強かったかな。
――先生も憧れの男優さんとかいたんですか?
蛙野:いなかったですね。しみけんさんのようなスターもいますけど、男優って基本的に裏方なので。AV男優という仕事自体に憧れていた。
―― カレンさんはAVの世界に飛び込もうと思うまでには時間がかからなかったんですか?
楪:かからなかったです。とくに変な悪いイメージもなくて。ただ、コロナ禍でのデビューだったんですよね。
――当時は厳戒体制みたいな感じ?
楪:そうですね。普通、デビュー直後の女優さんはイベントとかがあって、撮影以外でも忙しいと思うんですけど、私は撮影がないときは暇で暇で。
――接触系イベントができないから。
楪:言い方は悪いけど、当時は「AV女優って楽だな~」って思っていました(笑)。でも、コロナが落ち着いてきてイベントができるようになってからは「やっぱ忙しいわ」って感じてます笑。
蛙野:僕の場合は、連載が始まった直後にコロナ禍になりました。
――当初はコミックス 2冊くらいで終わるつもりだったんですよね。
蛙野:はい。なにしろ担当さんに声をかけてもらうまでは、まともにマンガを描いたことがなかったので。
楪:えーーー!?
蛙野:絵は趣味で描いていたんですけど。
楪:いや、絵が上手でもマンガは描けないですよ。
蛙野:ツイッター(現X)にアップしていた漫画をまとめたものを同人誌で出したことがあって。あの人(担当もーりさんを指さして)が「描いてださい」って。
――そんな『AV男優はじめました』も、めでたく100話を突破。担当さんのおかげで、楪カレンさんにも会えているわけですよ!
蛙野:感謝しています。ありがとう!
――カレンさんは『AV男優はじめました』を読んで、どんな感想を?
楪:あー、分かる分かるって部分もたくさんありますけど、ちょっと前の時代の話も出てくるので、そこも面白いですね。例えば今は男優さん、白ブリーフを履かないので。
――あの時代、なんで白ブリーフだったんでしょうね(笑)。
楪:あとは、いきなり女優さんとエッチができるわけじゃなくて、男優さんにも段階があるっていうのを知りました。歴が長いレジェンドを頂点に、本番ができる男優、汁男優、ガヤ……みたいな。
――最底辺は満員電車で立ってるだけみたいな。
蛙野:そういう意味では僕は運が良かったんですね。運が悪ければ2年ぐらいは汁男優のままだったと思う。
――作中でお金の話もよく出てくるじゃないですか。「これ、ギャラから交通費引いたら赤字になるよ!」って仕事を、よく続けていられるなって思います。
楪:二足か三足の草鞋じゃないと絶対無理ですよね。
蛙野:男優一本でやっている人は、ほんの一握り。いたとしても親元に住んでるとか。
――蛙野先生が「運がよかった」とおっしゃるのも、すごく分かるんです。くすぶっている汁男優たちの心が荒んでいく様が、漫画から伝わってくるので。
蛙野:それはありますね。ぶっかけ企画とかだと、20人くらい前室のたまりにいるんですけど、荒んでいる人たちがいるとそれが伝染していって、すごい嫌な集団が出来上がる(笑)。
楪:男優さんって待機の部屋、ほぼ皆さん一緒ですもんのね。
――たまりでは、どんな話するんですか?
蛙野:やっぱり仕事の話になりますよね。「最近どこそこの現場に行きましたよ」とか。
――仲良くなってプライベートで遊ぶ人とかも?
蛙野:いますよ。「ドラ〇エX」が出たころは、みんなでやっていました。
――オンラインでゲームをやりつつ、チャットで現場の話とかも出て。
蛙野:そうそう、まさに(笑)。
楪:面白いなぁ。女優さん同士は部屋も違うし、メイクルームが一緒だとしても雑談程度で。次の準備するために休憩してたりとか。安易に話しかけられない。
――仲良しの女優さんもいらっしゃいますよね?
楪:それはお仕事で一緒にならない人ですね。イベントとかで知り合ったり。男優さんたち、サプリの話とか「どこのジムに行ってるの?」みたいな話、よくしていますよね。
蛙野:健康の話はしますね。病気の話とか(笑)。
楪:「ふだん君は何を食べているんだい?」みたいな話が聞こえてきます(笑)。
AVの中の人になったことで
性癖は変化するものなのか?
――現場を積み重ねると、性癖も変わるものなんですか?
蛙野:それが僕はずっと普通なんですよ。それが悩みの種でもあるんですけど。普通に綺麗な女優さんが好き。熟女好きとか、そういう武器が全くない。
楪:好き嫌いが特にないオールマイティって良くないですか?
蛙野:めちゃめちゃいいように言ってくれる!
――プハハッ!
楪:仮にロリコンだとして、熟女の方を相手にするってなったら、頑張ろうと思っても息子は正直じゃないですか。
――カレンさんは?
楪:性癖が変わったってことはないんですけど……。昔はAVをファンタジー思考で観ていたんですよ。ロリも好きですし、義理の母と息子みたいなものも好きだし。でも業界に入って「そんなものは、あるわけない」と悟りました。
―― デビューの前はBL漫画を好む女子高生みたいな嗜好だったんですね。
楪:そんな感じです。仲のよさそうなサラリーマンの2人組がコンビニから出てきたとしたら「あの人たち実は裏でこっそり……うへうへ~」みたいな(笑)。
――その幻想はどうして破れてしまったのでしょう?
楪:実際に自分が経験体感するからですね。例えば電車で酔いつぶれた人にエッチなことをする、みたいなシチュエーションがありますよね。デビュー前は 「そういうのってあるかもな~」と思っていたんですけど、いざやってみると「これ絶対、起きるだろう」と。
蛙野:めっちゃ音してるじゃんってね(笑)。
楪:どんどん現実世界に引き戻されていきます。もちろん今でも作品として楽しんでいますけどね。あんまりしゃべりすぎると夢を壊しちゃうかな(笑)。
――そんなことを言ったら、『AV男優はじめました』なんて夢壊しまくりですよ。
蛙野:それ、すごい言われます…。でも変にこじらせるよりは、夢を壊した方がいいんですよ!
自分の出演作は
基本的に観ない
――それにしてもAVの世界は奥深い。2人はAVの面白さって、どういうところに感じますか?
楪:素人時代は女優さんしか見ていなかったけど、いまは展開を見ているのが好きです。昔はドラマシーンをバーって飛ばして女優さんが一番可愛く映っているシーンで止めるとか、そんな観方をしていたんですけど、今は逆に全部のシーンをゆっくり見る。「こんな変な展開あるんだ~」とか。
――そこは業界に入って変わったんですね。
楪:鑑賞スタイルは変わりましたね。
――蛙野先生は自分の出ている作品を全部見ているんですか?
蛙野:自分が出ている作品は観ないです。
楪:私も自分の作品は、ほぼ見ないですね。
蛙野:最初のころは見ることもあったんですけど、だんだん辛くなってくるんですよ。
楪:サンプル動画がギリですね。ちょっと反省したいなっていうシーンがあったときは観ますけど。皆さんも自分が出ている動画を見て「俺ってこんなキモい声してるんだ」なんて思うことがあるでしょう?
――ライターが一番嫌いな作業が音声起こしです。
楪:それと同じで、苦しくなっちゃうんですよ。
蛙野:だから「どの作品出てるんですか?」って、友人や読者に聞かれることもあるけど、絶対に答えないですもん。
――友人に指摘されるみたいなことはあるんですよね?
蛙野:ありますよ。「好きな女優のAVを観ていたら、蛙野が出てきたから萎えた」ってLINEが来たり。
――カレンさんも地元の友達から似たような連絡が来ることも?
楪:ないですね。デビューする時に沖縄の友達の連絡先を全部消して、電話番号も変えちゃったので。「出てるよね?」って直接連絡されるよりは、「あいつデビューしたらしいよ」ってどこかで言われているぐらいでいいですね。
――そこは潔くシャットアウトアウトしたんですね。
楪:ただ、お父さんとお母さんに言われた時は……。言われたっていうか自分から言ったんですけど、そのときは「お前の人生だからいいんじゃないか? ただ、おじいちゃんおばあちゃんは失神するかもしれないから、絶対に言うなよ」って言われました。
蛙野:僕は親には言ってないです。漫画家になったことも教えてない。
楪:漫画家になったことを教えたら、AV男優になったこともバレちゃいますもんね(笑)。
――AV男優を辞めたいと思ったことはないんですか?
蛙野:ありますけど…まずこの仕事辞めるってことがないんです。AV男優で引退を宣言する人って、一部のスターを除いてほとんどないです。そもそも宣言する場所がない。
楪:蛙野先生は漫画で引退宣言をしないと。
蛙野:あー、そうか。そうですよね。
――カレンさんは昨年“生涯AV女優宣言”をされていましたけど、今でも気持ちは変わらない?
楪:変わらないですね。「お婆ちゃんになっても愛してくれよ!」って気持ちです。
――お2人が今後、どこかの現場でバッタリということもあるかもしれませんね。
蛙野:超会いたいです!
楪:そのときは漫画のネタを提供できるように、がんばります!
【取材:文=奈良崎コロスケ/撮影=平野光良(新潮社)】
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