『クマ撃ちの女』安島薮太×『ガンニバル』二宮正明 特別対談

人喰い熊と人喰い村が

禁断のコラボ!?

仲良くケンカをしながらエールを送りあう同期コンビが

NGナシで本音をぶつけ合う!

俄然緊張感が高まる『クマ撃ちの女』。片や完結後にディズニープラスで実写ドラマ化、世界中を震撼させた『ガンニバル』。人里離れた山奥で人が喰らわれる――そんな共通テーマを持つ2作品が『クマ撃ちの女』第11巻(2023年7月7日発売)の帯でコラボレーションを果たした。実は安島薮太と二宮正明は7年来の仲。知られざる2人の関係をひもときながら、互いの作品を論評しあうレアな対談が開幕する!

取材・文/奈良崎コロスケ

安島薮太(あじま・やぶた)

1984年生まれ。愛知県出身。大阪芸大卒業後、アシスタントスタッフなどを経て漫画家に。2019年、『クマ撃ちの女』(「くらげバンチ」)にて連載デビュー。入念な取材を積み上げたリアリティと衝撃的な内容で、さまざまなメディアで話題となる。最新11巻が7月7日に発売。

二宮正明(にのみや・まさあき)

1988年生まれ。香川県出身。2016年、『鳥葬のバベル』(「モーニング」/二宮志郎名義)で連載デビュー。2018年~2021年にかけて「週刊漫画ゴラク」にて『ガンニバル』を連載し、人気を博す。2022年暮れ、柳楽優弥主演で『ガンニバル』が実写ドラマ化を果たし、ディズニープラスで世界配信された。

 

両者のあいだには出会った時点で厳格な上下関係が構築されていた

──お2人はプライベートでも仲良しなんですよね。

安島 実際に顔を合わせることは少ないんですけど、オンラインでよく話していますし、仲はいいですね。実は明日も2人で大阪に行くんですよ。

二宮 共通の友人に会いに。2人きりで旅行をするわけじゃないですよ。

安島 そこは、ちゃんと言っておきたい!

──わかりました。勘違いされないように書いておきます(笑)。まずは出会いの話からお聞かせいただけますか?

安島 もう7年くらい前かな? 講談社の新人漫画賞(2016年/「モーニング」主催・第2回「THE GATE」)の授賞式ですね。

二宮 そのとき、僕が大賞(『ドメスティックハピネス』二宮志郎名義)だったんですよ。

安島 僕は一番下の賞で……。二宮が「俺が王様だ!」と。授賞式の2次会で居酒屋に行った際も、「俺の靴を下駄箱に入れとけ」と初対面の僕に言うわけです。僕のほうが4歳も年上なのに。

二宮 安島さん、その言い方は語弊があるわ。正しくは僕が靴を脱いでボーンと放り投げて、「入れろ!」と命令しました。

──(笑)。安島さんはなんて言い返したんですか?

安島 「はい……わかりました」。

全員(爆笑)

安島 そのときから、いっこうに関係性は変わっておりません。差は広がるばかりです。

二宮 一生マウントとらせていただきます(笑)。

──つまり、お2人は同じ漫画賞出身の同期なのですね。

安島 何をもって同期とするかにもよると思うんですけど。まぁ、そうなりますね。ただ来歴は全然違って。僕は連載獲得まで10年かかっています。二宮は大賞をとった時点で漫画を描き始めて2年弱。その後すぐに「モーニング」で連載(『鳥葬のバベル』二宮志郎)を始めるわけです。

二宮 26のときに描き始めて27で連載始めました。

──そんな2人が最初から意気投合したのですか?

安島 まぁ、そうですね。二次会の後、全員帰っちゃって僕ら2人しか残っていなくて、「んじゃカラオケでも行くか!」と。

──初対面の男2人でカラオケに。

二宮 最終的に行ったね。

安島 エレカシ歌ってね(笑)。その時点で「こいつとは仲良くなれるな」っていう感触はありましたね。

二宮 僕も……。気安い方だなって。

安島 言い方!

──なにか共通の趣味や話題で盛り上がったとかではなく?

安島 そういうのは、ほとんどないんですよ。単純に面白かったんですよね。「漫画家志望者でこんなやつ、ちょっといないな」って。

二宮 そうなんですか? 自分ではわかんないけど。

安島 だって、思っている悪口を全部いうんですよ? 誠実な男だなと思いました。

二宮 安島さんが言いやすい人なので。なにしろ天然クマちゃんなので。二丁目でモテそうなルックスなので。

安島 うん、モテる。

 

二宮先生との出会いがなければ『クマ撃ちの女』は存在しなかった!?

──そんな出会いから7年の時を経て『クマ撃ちの女』の帯を二宮さんが任され、こうして対談まで行われるというのは、なかなか感慨深い話ですね。

安島 二宮はどうだかわからないけど、僕はありますよ。

二宮 僕だってありますよ。

安島 あの時点では2人とも何者でもなかったわけなので。まぁ二宮はすぐに売れちゃったけど、僕の場合はなんのアテもなかったので。

二宮 そこに関しては一緒ですって。

安島 3年くらい先を走られましたからね。めちゃくちゃ悔しかった。当時は知り合ったばかりで今ほど仲良くなかったけど、存在としてはデカかったんです。二宮は絵が抜群に上手いけど、専門的に習った経験はないんですよ。

──そうなんですか?

二宮 なんの経験もなかったですね。アシスタントも賞をとる少し前にちょっとやった程度です。

安島 もちろん個人的に努力しているとは思いますけど、素で上手いことは確か。「ああ、天才っているんだな」って思って、「だったら僕はもう絵で勝負するのはヤメよう」と決めたんです。二宮がいなかったらそんなことは思わなかった。

二宮 本当かなぁ。

安島 本当だって。俺の武器は絵ではないと確信した。だから『クマ撃ちの女』の作画は、かなり記号的に描いているんですよ。そこを構図とか演出とかシナリオでカバーする。あの新人賞のとき、審査員の先生から「あなたが描くキャラクター、本当に嫌い!」って言われたんですよ。「でも演出はうまい。だから最後まで読んじゃった」って言われたので。

──褒め言葉ですよね。

二宮 だったら、その審査員の先生のおかげじゃないですか。

安島 二宮の影響もあるの! だって雑誌を開いたらめっちゃかっこいい絵がバーンと載っているわけじゃない。そりゃ、ショックを受けるよ。

──そんなふうに紆余曲折を経て、ついに『クマ撃ちの女』をスタートさせるわけですね。

安島 ただ第1話の感想をもらったとき、ケンカになったんです。

──毒舌がさく裂したんですか?

二宮 そんなことはなくて。単に「こうしたほうがいいんじゃない」って言っただけだったんですけど。ノンフィクション仕立ての割には、キャラクターがマンガっぽいので、もう少し写実寄りに変えちゃったほうがいいんじゃないかと。

安島 僕は「キャラクターまで写実的にしちゃうと沈んじゃうから、コミカルに描くことが大事なんだ」と主張して。ただ、それを言ってもなかなか二宮はわかってくれない。

二宮 色々言いましたけどけなすつもりはないんです。「そういう可能性もあるんちゃう?」ってだけで。

安島 そんなやりとりをした後、けっこう長いあいだ疎遠になります(笑)。

 

物語のテンションが落ちないように意識している

──『ガンニバル』(2018年10月より「週刊漫画ゴラク」にて連載開始)は『クマ撃ちの女』(2019年1月より「くらげバンチ」にて連載開始)よりも数か月前に始まりました。

安島 『ガンニバル』を準備中のときに二宮の家に遊びに行ったんですけど、原稿を見せてもらって「あっ、クマを描いてる! くそー!」と思いました。その時点で『クマ撃ちの女』も連載が決まっていたので。ただ、失礼だけど「人食い」の漫画なんて、そんなに需要あるのかなって最初は思いましたけどね。

二宮 需要はあるでしょ?

安島 結果的にはね。ただ、そこは二宮のバランス感のたまものだと思うのよ。ちゃんと人間が描けているからこそ、『ガンニバル』は売れたんだよ。

──たしかにあのテーマで人間ドラマをすっとばしていたら、振り落とされちゃう人が多かったのかもしれませんね。

二宮 なるほど。そこはドラマ化されたときに僕も思いました。おどろおどろしい部分が先行していたら、シンプルなスプラッター作品になってしまうので。

安島 だから『ガンニバル』が売れたのは、絶対に運じゃない。

──バランス感に関しては『クマ撃ちの女』も絶妙だと思いますよ。まさか11巻を越えてさらに、ここまでテンションが高まるとは思いもよらなかったので。

二宮 僕も最初「どうするんやろ」って思った。ヒグマ殺しちゃったし。

安島 そこはちゃんと考えているんだって! なんとか(テンションが)落ちないように今、がんばっている最中です。『ガンニバル』も同じパターンだと思うけど。

二宮 テンション落ちないように、がんばったつもりです

安島 まぁ『ガンニバル』はずっと高かったけどね。あのマンガは僕には絶対に描けない。二宮の根っこは少年漫画。僕は最初から青年漫画なんだよね。小1の時点でもう『寄生獣』を読んでいたから。

二宮 確かにサブカル寄りの青年漫画からはあまり影響を受けていないけど、僕も小学生のときに『バガボンド』を読んでいましたし、ボーダーレスな作品が好きでしたよ。藤田和日郎先生の作品とか。

──第1話の感想戦でケンカになったとのことですが、その後、巻を重ねた『クマ撃ちの女』を二宮さんはどんなふうに読まれてきたのですか。

二宮 地味なエピソードの積み重ねなんですけど、少しずつアイテムが増えていく感じもあって、ずっと読めるんですよね。地道な取材のおかげでリアリティ満点なのにエピソードと乖離しない。そこの見せ方が上手いんだなって思います。

──確かに狩猟のテクニカルな部分を物語に落とし込んで、読者のページを繰る手を止めさせないというのは、演出力が高いことの証左かもしれませんね。

安島 僕自身が狩猟の素人なので、取材を通じて「面白い!」と思ったことを描けば面白くなるんですよ。

二宮 でも、あのネタでこれだけもたせる技術はすごいよ。キャラクターも全員微妙にウザいしね。安島さんらしさが出てる。

安島 それを言ったら『ガンニバル』のキャラは二宮だなって思う。

──やっぱり自分が出ちゃいますか。

二宮 出ますね。安島さんの昔の読み切りを読ませてもらったことがあるんですけど、その作品にも自己中な女が出てくるんですよ。もはや癖(へき)ですね。

──そういう女子が好みなのかな?

二宮 きっとそうですよ。「なんでこんな女が好きだったん?」っていうね。

安島 それは……あります。否、ありました。

──伊藤とチアキの関係性に近い恋愛が。

二宮 そういうところを読者に「気持ち悪い!」と言われるわけだ。

安島 それは意図したことだから、いいの!

 

仲良しな両先生の今後にも

ご期待ください!!