世はハンター漫画時代!?
注目のジャンルを牽引する2人が
熊を、銃を、漫画を、熱く語り合う!
現在連載しているハンター漫画といえば、「くらげバンチ」の『クマ撃ちの女』、そして「モーニング」(講談社)連載中の『マタギガンナー』だ。作品のスタートは『クマ撃ちの女』が先だったこともあり、藤本正二先生は連載スタート前に安島薮太先生に挨拶。そこで安島先生は、藤本さんに『クマ撃ちの女』の監修でおなじみ、豊和精機の佐藤一博さんを紹介するなど、互いにエールを送りあうよきライバル関係を築いている。今回は『クマ撃ちの女』14巻と『マタギガンナー』9巻のリリースを記念して、本邦初となる2人の対談が実現した。
取材・文/奈良崎コロスケ
安島薮太(あじま・やぶた)
1984年生まれ。愛知県出身。大阪芸術大学卒業後に漫画家を志し、2019年に『クマ撃ちの女』で連載デビュー。入念な取材を積み上げたリアリティと衝撃的な内容で、さまざまなメディアで話題となる。最新14巻が11月9日に発売。
藤本正二(ふじもと・しょうじ)
1982年生まれ。東京都出身。2015年に『終電ちゃん』(「モーニング」/講談社)で連載デビュー。2022年からは原作者として、作画にスペイン人のJuan Albarran氏を迎え、『マタギガンナー』の連載を開始。最新9巻が11月21日に発売。
マタギのおじいさんがゲーマーになるという設定に「やられた!」と思った
――まずは、お2人の出会いからお聞かせいただけますか?
安島 2021年の暮れに、忘年会でお会いしたのが初めてですよね?
藤本 はい。そのときに「狩猟関係の漫画を描くことになりまして」とご挨拶して。
――『クマ撃ちの女』はハンター漫画の先輩だから。
安島 とはいえ「基本的にはゲームがメインだよな~」って思っていたら、けっこう狩猟も絡んできてびっくりしたんですよ。
藤本 いまはゲームと狩猟、半々くらいかな。
安島 1:9か2:8くらいでやるんだと思っていました。だって、狩猟シーンを描くのって面倒くさいもん(笑)。
藤本 そうなんですよ(笑)。頭の切り替えも必要だし、話をつなぐのも大変だし。
安島 僕もゲームが好きなので、実は『クマ撃ちの女』を始める前にプロゲーマーの話も考えていたんですよ。難しい題材なので断念しましたが。だから「マタギの爺さんがゲーマーになるって、めちゃくちゃ面白い設定だな。やられた!」と思いました。
藤本 主人公はゲームをやらなそうな人のほうが面白いじゃないかって発想から、色々なキャラクター案を出して。そのなかにマタギもいたんです。
安島 どう考えてもいけそうですよね。単なるゲーマーを主人公にすると、机の前でゲームをやっているだけになっちゃいますから。
藤本 ただ、ゲームは好きですけどマタギや銃の知識には乏しいので、佐藤一博さん(豊和精機製作所)を安島さんにご紹介いただいて助かりました。
――いわゆるネタ元(監修)を同業者に紹介するのはOKなんですか?
安島 まぁメシの種なのでデリケートな部分ではあるんですけど、臆していたら前に進めないですからね。僕もいろんな人にどんどん話を聞くようにしています。もちろん関係性にもよりますが。藤本さんなら、何を聞いてもらっても構いません。熊の話なら色々聞きましたよ。ヒグマよりもツキノワグマのほうが恐ろしいとか。ちなみに熊、山で見ました?
藤本 さすがにないです。
安島 僕もないです。足跡くらいはありますけど。取材のときも「見たくない」という方針で話を聞いています(笑)。知り合いの人で熊にやられちゃった人もいて。その現場に行ったこともありますけど、それだけでも怖かった。
――ハンター取材もされてるんですか?
藤本 千葉や秋田に行って、実際に狩りをされている方々に話を聞きました。
安島 ハンターって、腕がある人ほどクセが強いですよね。何か哲学がないとできない行為だから。
――『マタギガンナー』の主人公・山野仁成も独特のキャラクターですよね。
藤本 はい。ただ、ここまで寡黙なキャラクターを描いたことがなくて。
安島 しゃべらない主人公って厄介ですよ。もたせるために周りがしゃべるしかない。茨の道を選びましたね。
藤本 最初は結構しゃべるキャラだったんです。「勝ったー!」ってガッツポーズするような。でも、担当編集の鍵田さんから「そういうの全部なしでやってみましょう」と(笑)。
――両作品で静と動、対照的なハンター主人公になっていますね。
安島 山野はいわゆる昔気質の象徴的なハンターで、チアキは現代的な、もう少しカッコ悪い感じのハンターですね。
両作とも多くの協力者がいる総合芸術的な体制で生み出されている
――『マタギガンナー』の原作はネームで描かれているのですか?
藤本 そうですね。
――藤本先生は平日に会社勤めをされているので、大変ですね。
安島 どんな感じのタイムテーブルで?
藤本 土日でネームを1本あげるって感じですね。平日は疲れていて作れないので。
安島 僕は基本、3日で作ります。1日目にどういう話にするのか決めて、疑問点が浮かんだら、いろんな人に電話して埋めるんですよ。それをもとに詳細なプロットづくりをする。で、3日目がネーム。だからネームは一番楽なんですよね。 パズルをハメていく作業なので。
――ネームに入るまでに客観視が入るんですね。
安島 そうなんです。3セットに分けると確定事項ができるじゃないですか。ネームが詰まるのは、一度に考えることが多すぎるからだと思っていて。ただデメリットもあって。絶対に3日かかっちゃう。1日でガーっとやるってことはできない。
――お二方とも物語の完結までのプランを決め込んで描いているのですか?
安島 最後までの道筋は決めていて、今はけっこう佳境に入っています。
藤本 いいなぁ。僕はもう、とにかく毎週頭を絞って。先の心配をしながらやってますね。
安島 これから読者にどんどん負荷をかけていくような、しんどいエピソードが続くことになります。完結がいつになるのかは明言できないんですけど、ラストはきっとびっくりしますよ。
――ちなみに『クマ撃ちの女』を読まれたハンターの方々からは、どんなフィードバックが?
安島 お世話になっている銃砲店の店主から、「けっこう踏み込んだところまでハンターのリアルを書いてくれているのが嬉しい」って言われました。そういった細かい部分は読者に伝わらない部分があるかもしれないけど、それでいいと思ってやっています。
――「神は細部に宿る」ですね。
安島 もちろんそれは僕だけの力ではなくて、監修の佐藤さんを始めとして、信頼できる取材対象者がいてこそ。僕はそういった総合芸術的な作り方しかできないと思う。そこまで才能があるわけではないので。
――総合芸術的といえば、『マタギガンナー』も海を越えて、スペイン人のJuan先生とタッグを組んでいますね。
藤本 Juanさんはもともと左藤真通さん(『この世界は不完全すぎる』/講談社)のデジタルアシスタントをやっていた方で、その縁で紹介していただいて。担当編集の千葉さんがスペイン語堪能なので、なんとかやっています。
2つの作品に大きな影響力を及ぼすフィクサーを召喚
――あっ! ここで豊和精機の佐藤一博さんと電話がつながったみたいです。
安島 いま、ちょうど佐藤さんの存在がでかいって話をしていたところだったんですよ。
佐藤 ねっ、デカいでしょ? まぁ『クマ撃ちの女』は僕が描いているようなものですから(笑)。
藤本 僕は実際に佐藤さんにお会いして、圧倒されました。
佐藤 えー? してないよ(笑)。
安島 圧倒されたでしょ? そもそも豊和精機って、銃砲店とは思えないもん。
藤本 たしかに。ギターがいっぱいあった記憶があります。
佐藤 音楽もやっているんですけど、僕、イチから何かを作るの苦手なんですよ。でも人の作ったもの…バンドでいえば誰かが作った曲をいじくるのは大好きなんですね。
安島 とはいえ佐藤さんは茶々を入れるだけの人じゃなくて、ちゃんとピンポイントでアイデアを出してくれる。例えばチアキのお姉ちゃんが熊に襲われるシーンで、「どうにかして車のドアが閉められないようにしたいんだけど」って丸投げしたら、「スキー板を挟んじゃえばいいよ」って。
――スパーンと明快な答えをくれるんですね。
藤本 僕の場合は「山野が使う銃って、どんなものがいいんですかね?」と相談して。それ以降、絵的に具体的になった。佐藤さんとお会いするまでは、けっこう適当に描いていたんですよ。それを読者に突っ込まれたりして。
――佐藤さんは両作を読んで、どんな感想を?
佐藤 『クマ撃ちの女』は山の中のリアリティがすごくあって、逆に『マタギガンナー』はファンタジー要素が強いですよね。ちなみに僕もFPSをやっていたので、山野さんみたいなものなんですよ。どちらも自分がやっていることに近い内容なので、楽しく読んでいますね。
――佐藤さんはX(@HowaSeiki)のフォロワーが2.6万超と、SNS上の人気者でもあるんですよね。
安島 とにかく面白い人なので。埼玉にある店に行くと、コーヒー出してもらえますよ!
佐藤 そこらへんの喫茶店よりいい豆使ってますからね!
藤本 本当にあそこは、なんのお店だからわからない(笑)。
――両作品の読者は、豊和精機のアカウントのフォローすると楽しみが増えそうですね。
安島 間違いないです。
――最後に、佐藤さん的にどちらの作品が面白いと思っているのかをお聞かせください。
藤本 ちょっ、ちょっと待ってください!
佐藤 ええっと、それはねぇ(笑)。
安島 答えようとしないで! 本当にヤメて!
新刊をよろしくお願いします!