山崎零×コバヤシクミ 特別対談 「着物を着ると、新しい自分を発見できる―――」

『恋せよキモノ乙女』第2巻の発売を記念して、作者の山崎零さんと監修で着物スタイリストのコバヤシクミさんの対談を敢行! お二人の着物との出会いや着物を着始めて変わったこと、漫画やスタイリングのことまで語りつくしていただきました♪

 

――――ライブ感満載のコミックス制作現場

編集C 『恋せよキモノ乙女』第2巻が発売しました。今巻は、ビビッドな黄色の背景と薄紫色の着物のももちゃんが、可愛いですね。

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『恋せよキモノ乙女』第2巻

山崎零(以下、山崎) 7月に発売するので、涼しげな雰囲気があるといいなと思っていました。滋賀の満月寺の浮御堂でクリームソーダ食べているももちゃん描きたいなって思っていて、琵琶湖を描くなら背景色は黄色か青色かな、と。コミックスの打ち合わせをした時に、デザイナーさんからキャラクターをアップで描いて欲しいというご要望があったので、そうなると、着物は大柄で細かい方が良いかな、と。2巻は、9月の話から始まるので、着物の柄として初秋の花の菊案が出ました。

編集C 菊柄には、どんな意味合いがあるんですか?

コバヤシクミ(以下、コバヤシ) 日本には、一年の中で五つの節句があります。その一つが、9月9日「重陽の節句」菊の香りが邪気を祓い、長寿をもたらすというというものです。9月のお話ということで、丁度良いかと感じました。

編集C そんな由来があるんですね。

山崎 着物が花柄だったので、帯はモダンな柄が良いかなという話になって、斜め格子のチェック柄になりました。茶色い線は、コバヤシさんのこだわりを感じました。

コバヤシ 丸みのある着物の柄には、直線的なデザインの帯が相性が良く、爽やかな色でももちゃんらしさを出せたらなと思いました。

編集C 今巻のコミックスのカバーは、山崎さんとコバヤシさんとデザイナーさんと4人の打ち合わせ現場で作り上げていく感じがあって、とても楽しかったですね。おかげで、とても素敵なカバーに仕上がった気がします。

 

――――着物とのかかわり

編集C お二人が着物を着始めたきっかけは!?

山崎 私は全然着てない白の大島紬の着物が家にあって、初めて見た時、「なんてキレイなんだろう」と思って、それをどうしても着たくて着付け教室に通い始めたのがきっかけですね。

コバヤシ 私は6歳からお琴をやっていて、そこから10年間、発表会などで年に1、2度着物を着ていたので元々馴染みがありました。プライベートで楽しんで着物を着ようと思ったのは大学生の時で、アンティークの着物に出会ったことがきっかけです。母に連れられて行った着物店で、すごく鮮やかな色と大胆なデザインが目に飛び込んできて「これは面白い、着てみたい」という衝動に駆られました。

山崎 コバヤシさんが初めて「これ着たい!」って思った着物がアンティークって、なんか今の着こなしからだと意外かも。

コバヤシ そうですね。大学時代は美術をやっていたので、色彩の鮮やかさにすごくハッとさせられたというか。アンティーク着物の時代は、色合わせだったり自由じゃないですか。

山崎 今の時代にはない斬新さがありますね。

コバヤシ そうなんですよ。ただ、ある程度アンティークを着ると満足感が出て来て。ちょっと違う着物が着てみたいなって感じになって、次は縞柄みたいな粋な着物にはまりました。そこからシンプルなもの、現代物に移行して現在に至るという感じです。

編集C お二人とも「着てみたい」という衝動から、着物を着始めたって面白いですね。着物を着ていると、何か変化はありますか?

コバヤシ 着物を着ていると、周りの方が大事にしてくださいますねお店に入っても待遇が違うんですよ。「ナプキン使ってください」とか。

山崎 ホント違いますよね。私は、着物で出歩くと、おば様方からすごく好意的に話しかけられますね。「今、こういう足袋があるのね、いいわね」とか、「家にもいっぱい着物あるけど、全然着ないから着なきゃね」とか。洋服を着ていたらうまれない会話が、見知らぬ人とできて、そういうところが素敵だなって思います

編集C 漫画の中でもそういうシーンありますよね。

山崎 そうですね。たとえば、ももちゃんが図書館で話しかけられるシーンは、私がネームしに着物でスタバに通っていた時、締めていた帯の柄をきっかけに店員さんと「あーもう春なんですね」という会話がうまれたことから思いついたエピソードですね。

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『恋せよキモノ乙女』第1巻 第2話より

山崎 そういうところが良いなって思って。桜が咲いているのを見て「4月だな」って思うことはあるんですけど、誰かの装いを見て「ああ、春なんだ」と季節を感じられるのもいいかなって。

コバヤシ 着物を着ると自分も楽しくなるんだけど、周りの人も心が和んでくださるような気がしますよね。

山崎 すごくわかります!

編集C 素敵ですね~。漫画で描かれているエピソードは、山崎さんが着物を着たときの実体験が多いですよね。

山崎 はい。ももちゃんのおばあちゃんは、モデルになった家があって、私が着物を着始めたことを知り合いのおばあ様に話したところ、昔着ていらっしゃった着物をくださって。「こんなにお洒落な着物を着ていたのか」というくらい華やかで可愛い着物が沢山あって。昔でもこんなにモダンでいい状態の着物が沢山残ってるんだー、と思って。ちょうどその頃、Cさんからこの漫画の話をいただきました。

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『恋せよキモノ乙女』第1巻 第2話より

編集C そんなタイミングだったとは……。

山崎 そうだったんです。私は肩ゆきが長いのでリサイクル着物は着れないと思ってたんですけど、譲っていただいた着物を着てみたら、意外に着れて。たとえば、私よりもちょっと身長低めの子だったら全然いけるんじゃないかな、と思ってももちゃんがうまれました。また椎名さんが着物と洋服で、ももちゃんに気づかなかったというエピソードがありますが、これも実体験なんです……。私、初めての人に着物で会うと、その後、何回洋服で会っても全然覚えてもらえないんですよね(笑)。

コバヤシ 確かに着物の時と洋服の時って印象変わりますよね。

山崎 髪型も変わったりしますしね。

コバヤシ もしかしたら、着物を着ている本人も着物モードにスイッチが入っているのかもしれない。

編集C 着物モードの時のお二人はどんな感じですか?

山崎 物理的に大股で歩けないじゃないですか。だからいつもよりちょっと良い姿勢でいようとするかも。

コバヤシ ちょっと丁寧になりますね。

山崎 丁寧になります。

コバヤシ ひとつひとつ、日常のどこかで。

山崎 そうですね。座る時もできるだけ着崩れないように、しゃんと背筋伸ばしますね。

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『恋せよキモノ乙女』第1巻 第2話より

コバヤシ やっぱり着物を着ると、気持ちがなんかしゃきっとするというか。なんかこう気持ちよさというか、爽快感というか、そういう高揚感がうまれます色もお洋服よりも色数が増えるんですよね。そうするとやっぱり色彩の効果があって。鏡を見た時に色んな色が視覚として入ってくるから、多分脳刺激にもなってる気がします。

山崎 なってると思います。私、大学の頃からモノトーンの服が多くて白にジーンズ、白に黒とかばかりで、「ピンクなんて絶対着ない」と思っていたんですが、おばあ様からピンクの着物を頂いて「可愛いけど、私には合わないだろう」と思って着てみたら、「意外にいける!」って思って

コバヤシ それ結構あるあるですよ。着物あるある

山崎 着物あるある(笑)。

コバヤシ 洋服では絶対着ない、ほぼ着ない色でも着物だと着れる

山崎 そうなんです。だから、これから着たことのない色の着物を着たいなって思っていて、まだ着れていないのが、赤色。

コバヤシ 私も一緒かも。一番好きな色は、ブルーとか寒色系とか、紫、藤色なんですけど、これまで着てきた中で手を出してない色がピンクと赤なんですよね。ピンクはちょっと気持ち的にトライしづらい色なんですけど、赤だったら、朱寄りとかオレンジ寄りの赤い帯をしてみたりとか、着物の一部に赤を使っているものとかを着始めたら、「意外と着れた!」みたいな。なんでしょうか、この自分の心境の変化。

山崎 少しずつ取り入れていくことによって、自分に馴染んでくるんですかね。それは新しい自分を発見したのか、それとも自分が変化していっているのか。多分、着物を着ていなかったら、こういう色の取り入れ方はしなかっただろうなって最近思います。

コバヤシ やっぱり自分の内面や気持ちは刻一刻と変わっていくし、取り巻く環境も変わっていきますしね。自分で「これは似合う、似合わない」って決めている部分があるのかもしれない。それが何かのきっかけで気持ちが変わって、Aの周波数の時は似合わないと思ってたけど、Bの周波数になったら「意外にいけた!」みたいな不思議な感じがありますよね。もしかしたら、本当はすべての色が元々似合う色かもしれない

山崎 確かに着物を着ると、新しい何かと出会えるような感じがあります。

コバヤシ 自分が思っている自分像をちょっと広げてくれますね。お洋服って“日常”じゃないですか。逆に着物は、“非日常感”を味わえますよね。いつもの自分の好み、○○ちゃんらしいねって言われるコーディネートももちろんするけど、それと真逆の、洋服だったらあんまりしない感じのコーディネートが着物だと出来るというか。着物を着る人って、そういった変身願望があるように感じます。

編集C コバヤシさんは、着物スタイリストとして様々な方のコーディネートをされていますが、ふだん意識されていることはありますか?

コバヤシ 同じ着物でも、人それぞれ合わせるコーディネートは全然違う。十人十色で、同じ人っていないと思うんですよね。それは、人それぞれ感性も違えば、生きてきた経験も違って、それによって着物、帯、帯締めなど、選ぶ色が変わってくるから。この間、絵画展に行った時、ふと「絵と額縁の関係は、着物を着る人と着物の関係に似ているな」って思いました。絵画は、絵が主役で額縁はわき役。主役を引き立てるための額縁なんですけど、絵に集中できるなっていう額縁もあれば、額縁が主張してしまって、絵がかすんでいるものもあって。着物も着る人を引き立てるためのものというか、その人の個性を表現できたり、その人の内面を引き出せるといいなと思っていますコーディネートさせていただく時も、Aの色を持ってきて、顔色が「うーん」ってなって、Bの色を持ってきたら「似合うな」って思った時、着る方の表情も一瞬にして変わるんですよね。主役を引き立てるコーディネートができた時、着る方も喜びのエネルギーが出ますし、スタイリングさせていただいた私も嬉しいですね。

編集C コバヤシさんは、その方が光り輝く方向にスタイリングされているんですね。

コバヤシ あ、そうです。バランスですかね。一方的に私が「これ似合いますよ」っていうものではなくて、お互いキャッチボールして、その人の人となりを教えてもらって、「ああ、じゃあこれかな」ってバチッと決まった時、二人で協力して作り上げた喜びを感じます。

編集C 漫画家さんと編集者に似ていますね。

山崎 そうですね。

コバヤシ そうですね、お互い協力して作り上げていく感じ。

山崎 その話すごくわかります。私、日本画も描いているんですが、額を付けるのがすごく苦手なんですよね。初めてオーダーメイドで額装してもらいに行ったとき、お店の人と試行錯誤して入れてもらった額がすごく良くて、何倍にも輝かんばかりの絵にしていただいた経験があるんです。漫画もそうで、Cさんとネームのやりとりを重ねていって渾身の1話ができたとき、一緒に漫画を作っている喜びがあるなーって思います。

編集C そうおっしゃっていただけると嬉しいです。思い出深いのは、第7話の椎名さんとの初デート回ですね。

山崎 本当に大変でした(笑)。ももちゃんが着物にはまった理由を考えていた時、パッと浮かんだのが、華やかな姉にコンプレックスがあって、いつも地味な服ばかり着ていた女の子が、おばあちゃんの着物を着るようになって、それまでは休日に出かけることも少なかったのに、着物を着たらどこかに出かけたくなって出かけるようになった、みたいなお話でした。恋も奥手で、最初はお姉ちゃんに背中を押してもらわないと、なかなか前に一歩踏み出していけなかったのですが、色々なできごとを経験することで、成長していってほしいな、と思っています。

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『恋せよキモノ乙女』第1巻 第2話より

コバヤシ 自分の力で人生を切り拓いていく子になっていくんですね。

編集C 今後のももちゃんの恋模様と素敵な着物をぜひ楽しんでいただけますと幸いです。

 

おわり